もう、疲れた。学校の授業にも塾にも。ついでに、親の怒号にも。

寝てもとれない疲れが段々と蓄積されていく。

こんな生活が続くくらいなら、消えたほうがマシだ。
そして、僕は決意した。

HRが終わって、学校を飛び出す。出来るだけトリッキィな死に方をして、僕の名前を皆に記憶させてやるんだ。果たして、そんな行動にどんな意味があるのだろうか。自分にも分からない。ただ、そうしたいから、するのだ。

ああ、それが意味か、と自己完結する。

死に方はすぐに決定した。元々、気まぐれで決定した行動なのだ。終わらせ方を気まぐれに決めてしまっても、何も問題はないだろう。

ナイフを使う。そう決めた。

おそらく昨日見たあの映画の影響だ。あの映画ではチェーンソーで殺しまわっていたが、そんなものは持ち運べない。僕は、精一杯、果物ナイフで切り裂く。

別に、誰も殺さない。僕がやるのはただ自分のスイッチを自分で消すだけのこと。何も悪いことじゃない。きっと、そうだ。

場所はすぐに決定した。駅前と。それはただ、そこで血を撒き散らして少しでも多くの人に迷惑を掛けてやるんだ。そんな自分の、あまりにも幼稚で単純な思考に笑みさえこぼれる。

学校から、そのままデパートでよく切れそうな果物ナイフを買った。なかなか切れずに何度も突き刺すなんて、興ざめしてしまう。そのままトイレで鞄に入れ、そして駅へと向かう。

もう空は暗く、光の存在はネオンでしか確認できない。駅は家路につくサラリーマンが疲れた顔をして歩いている。僕の死を彩るには最高の舞台だ。

ゆっくりと確実にナイフに手をのばし、握る。

「?」

誰かが、見ている。

そう思い見渡すと、目の前には女の子がいた。同い年ぐらいだろうか?

彼女は、ニヤニヤしながら、僕を見ている。まるで、僕の心を見通しているかのように。

不審に思いながら視線を逸らそうとした、その時。

彼女は、「さっき僕が買ったモノと同じナイフ」を持ち、自分の頸に突きつけ、切るジェスチャーをしていた。まだ、笑いながら。

こんな、明らかに異常な状況を、周りの奴らは誰も止めない。

そんな中、僕は大きく目を見開いて、彼女を見つめる。目が閉じない。閉じられない。歩けない。足が動かないのだ。声が出ない。止められない!

そして、彼女は笑いながら、自分の喉を貫いた。

彼女は吹き出る血潮を止めず、笑い続ける。
僕を見つめていた彼女の視線が、宙に舞い、そして、「消えた」
床には倒れた彼女からまだ止まらない血の海が広がり、それはいつしか通行人の靴まで赤く濡らし始める。そうなっても、周りの奴らは「誰も彼女に気づかない」

僕は、逃げた。ただそこに居たくなかった。
全力で逃げた。後ろなんて振り返らずに。
いつの間にか、足は自由になっていたのだ。そんなことを考えたのは逃げに逃げて公園にたどり着いてからしばらくした後だった。

目の前のあの光景が頭の中でリピート再生される。
自分でも怖いほど冷静に。

…そうだ。あのナイフは?
鞄のナイフを「確認」する。

「うわあっ」

思わず手から離したナイフが宙を舞う。
ナイフには血がべっとり付いていた。「彼女の」血が。

そして、ナイフは重力に逆らうこともなく、地面に刺さり、彼女の血は地面に吸い込まれて、消えた。

それから僕は、何事も無かったかのように帰宅した。
いや、何も無かったのだ。少なくとも、僕以外の皆には。

椅子に座り、目を瞑り、少しだけ考えてみた。

彼女は僕で、
幼稚な僕で、
そして、死んだ。

------それから、僕は少しだけ大人になれた。

青春の生け贄として死んだ彼女のために

僕はたぶん気まぐれだけど、生きようと思った。

人は、自分を殺して生きてゆく。

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